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倉原優

医師インタビュー

国立病院機構近畿中央呼吸器センター 内科

倉原 優 先生

「知ってほしい、
結核の10のこと。」

1 先進国なのに結核患者が多い日本。結核は“過去”の病気ではない

結核は過去の病気ではなく、今もなお世界では1年間で1,000万人が発病しています。とはいえ一般的に先進国である北米や欧州では、結核罹患率(人口10万人に対する結核患者の人数)は少なく、アメリカで2.7人、イギリスでも7.9人です。しかし日本の場合は、12.3人と未だ多い現状があるのです1)(図1)。その理由としては、第二次世界対戦前後(1940年代)、診断も治療もできない結核の高まん延の時代に感染した人々が高齢化して発病するようになったためと考えられています。ですから、日本人の結核患者のうち3人に2人は65歳以上の高齢者です。

1)厚生労働省 平成30年 結核登録者情報調査年報集計結果について

図1 先進国の結核罹患率(人口10万人に対する結核患者の人数)
先進国の結核罹患率(人口10万人に対する結核患者の人数)図1

2 日本人結核患者の特徴は、高齢者と大都市と生物学的製剤

日本人結核患者の特徴は高齢者であるという他に、地域格差があることも挙げられます。日本の結核罹患率(人口10万人に対する結核患者の人数)は全国では12.3人ですが、大阪市では29.3人、名古屋市では18.8人、神戸市では16.9人と、大都市で高い傾向があります2)。なかでも、大阪市には結核罹患率が100人超と、アフリカ諸国に匹敵するほどの地区があります。
 日本は国民皆保険で高額療養費制度もあり、関節リウマチなどの自己免疫疾患に対する生物学的製剤(最先端のバイオテクノロジー技術によって生み出された医薬品)や、さまざまながんに対する免疫チェックポイント阻害薬といった高額な薬剤がかなり使われています。免疫を抑えてしまう、これらの薬剤で治療している患者さんに結核が増えています。これも日本人結核患者の特徴の1つです。

2)厚生労働省 平成30年 結核登録者情報調査年報集計結果について

3 結核は感染してから発病するまでに半年~数十年。
ご家族が結核になっても慌てる必要なし

結核の感染経路は空気感染です。結核を発病している人が咳やくしゃみをしたときに、結核菌を含んだ飛沫が飛び散り、その周りの水分が蒸発した状態の結核菌の塊である「飛沫核(ひまつかく)」が空気中にふわふわ漂います。それを吸い込むことで感染します。
 インフルエンザウイルスやノロウイルスに感染したら2週間以内に発病しますが、結核に感染してもすぐに発病せず、早くても半年、長いと数十年経ってから発病します。感染しても9割の方は発病しません(図2)。ですから、ご家族など、濃厚接触している方が結核になっても慌てる必要はありません。

図2 結核の感染と発病
結核の感染と発症 図2

4 いつもの風邪ではなく、咳が長引くときは結核かも。3週間を目安に受診を

結核の主な症状は長引く咳や微熱です。風邪と似ていますが、喉が痛い、鼻水が出るといった症状は結核では見られません。過去に経験した風邪とは違うなと感じたとき、そして咳が長期間続くときは、結核かもしれませんので、胸部X線検査の設備がある内科や呼吸器科への受診をおすすめします。長引く咳の原因となる主な病気として咳ぜん息があります。胸部X線検査で結核は影がみられますが、咳ぜん息は異常がみられません。咳が長引くときは放っておかず、目安は3週間とし、病院を受診して適切な治療を受けましょう。
受診した病院で症状が改善しなかったからといって、次々と病院を渡り歩くことは危険です。結核の診断が遅れてしまう可能性があるからです。そのような際は、受診した病院で大きな総合病院の呼吸器内科を紹介していただくのが最善策です。

5 不健康な方、10代後半~30代の痩せ型の男性も結核にかかりやすいのでご注意を

高齢者、生物学的製剤などの免疫を抑制する薬で治療している患者さんの他にも結核にかかりやすい人がいます。以下のような人は結核の感染にご注意を(図3)。

図3 結核にかかりやすい人
  • •高齢者
  • •喫煙者
  • •糖尿病(血糖コントロール不良だと感染リスクが高くなる)
  • •免疫を抑制する薬(生物学的製剤など)で治療中
  • •不健康な方(タクシードライバーなど、不規則な生活を送っており病院も滅多に行かない)
  • •10代後半~30代の痩せ型の男性(肺の成長期に肺の換気が上手くいかない時期がある)
  • •フィリピン、中国、ベトナムなどの在留外国人

6 新型コロナウイルス感染症と結核との大きな違いは咳以外の症状

新型コロナウイルス感染症と結核は、咳が出るという点で似ています。しかし、新型コロナウイルスの咳は約1~2週間程度で治まりますが、結核の咳は長引き、2年間も続く方もいます。また、咳以外の症状として、結核では微熱がみられる一方、新型コロナウイルス感染症では高熱、のどの痛み、鼻水、嗅覚障害、味覚障害などさまざまな症状がみられます。咳がでる期間、咳以外の症状が新型コロナウイルス感染症と結核では大きく異なっています。

7 結核が疑われたらまず「たん」の中に結核菌がいるか顕微鏡で調べ、
抗酸菌がみられたら即入院

結核の発病が疑われたら、まず痰の検査と胸部X線検査を行います。痰を採取し、結核菌などの抗酸菌がいるかどうか顕微鏡で確認します。胸部X線検査で結核らしい陰影があり、かつ顕微鏡で痰の中に抗酸菌がいることが確認できたら、即座に隔離病棟に入院しなければなりません。入院期間は少なくとも2ヵ月間で、長い場合は4ヵ月間ほどになります。
胸部X線写真で結核らしい陰影があるものの、抗酸菌が確認できなかったら、痰の検査を数回繰り返します。顕微鏡では痰の中に抗酸菌が見えないが、培養検査で結核菌陽性になった方は、それほど菌の量が多くないので、外来で治療を開始します。

8 結核に感染したかどうかは採血してインターフェロン-γ遊離検査で調べる

結核の感染を調べる検査としては、ツベルクリン反応検査とインターフェロン-γ遊離検査があります。ツベルクリン反応検査はBCG(結核を予防するためのワクチン)を接種していると陽性になってしまうので日本ではあまり用いられることはなく、成人には主にインターフェロン-γ遊離検査を行います。インターフェロン-γ遊離検査は採血し、結核菌にこれまで感染したかどうかを簡単に調べることができます。
 ただし、高齢者の場合、知らず知らずのうちに過去結核菌に接触していることがあるため、80歳以上の高齢者だとインターフェロン-γ遊離検査が7割以上で陽性になります。若年者には精度の高い検査なのですが、中高年だと解釈に注意が必要になります。

9 結核の治療は4種類のお薬を長期間飲み続けなければならない

結核の治療にかかる医療費は全額公費負担です。ただ、入院から退院して外来通院に切り替わる時に約5%の費用を負担する必要があります。
 結核の治療は薬物療法で、基本的には4種類の飲み薬(錠剤、カプセル、顆粒、原末)を併用します。服用期間は6ヵ月以上と長いため、症状が軽くなった患者さんがお薬を飲み忘れないように、入院中は看護師が、外来通院中は保健師がお薬を服用している様子を直接確認するなどの方法で、お薬を飲み続けられるよう対策を講じます。

10 栄養バランスのよい食事と十分な睡眠。
免疫力が低下しないような健康的な生活が一番の結核予防

日本では定期接種のワクチンとして、生後1歳に至るまでにBCGを接種することになっています。しかし、成人になってからBCGを接種しても結核を予防する効果はなく、成人の結核を予防するワクチンは今のところ実用化されていません。
結核を予防するためには、栄養バランスのよい食事、十分な睡眠、適度な運動と、免疫力が低下しないよう健康的な規則正しい生活を心がけることが大切です。

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